奇貨居くべし

 借りてた宮城谷昌光「奇貨居くべし」(キカイダーではない。念のため)全五巻を一気に読んだ。いやー、相変わらずの宮城谷節炸裂で面白かった。この人の本って、歴史の横糸と縦糸がつながるところが面白いんだよね。一つの本で主役張ってた人が他の本で脇役になって出てくる。逆も然り。コレが横糸。氏は中国の春秋戦国時代を扱うことが多いんですが、春秋戦国時代っていっても約550年続いたからある登場人物の先祖や子孫が別の物語に出てきて活躍する。コレが縦糸。だから一冊読んだら他のも読みたくなって、気がついたら病みつきになってるんだよね。


 僕が初めに読んだのは中学2年の時で「晏子」って本。春秋時代の斉の国の将軍晏弱と宰相晏嬰という父子を描いたもの。さっきの話で言えば、この斉の国を開いたのは周の文王と武王を補佐した太公望だし(「太公望」で主役)、このときの君主の数代前の君主が桓公(春秋の五覇の一人)で宰相が管仲という話も出てきてのちに「管仲」(未読)で描いて、晏弱と同じ時代に晋の国のベテラン宰相の士会について「沙中の回廊」で描いている。ちなみに士会は若い頃に晋の文公「重耳」に仕えていた。また、晏弱が見出した陳無宇という人の子孫が後に斉の国をのっとり君主になって、その子孫の田文が「孟嘗君」で主役を張ったりと挙げていけばキリが無いくらいそれぞれの物語が絡み合っています。一冊読んだらホントにその世界に引きずり込まれます。


 しかも文体がかなり好きなんですよ。一つ一つの文章に機知に富んだ表現を用いていたり、昔の難しい漢字を昔の意味のとおりに用いていたり。同じ中国小説でも陳瞬臣の文体は俗っぽくて嫌いなんで、「十八史略」なんかはとちゅうで読むのをやめました。あと、宮城谷氏の描く主人公はいつも魅力的で、毎回似てる気もしないではないけどでもオーラが出てるんですね。脇役の輝かせ方も非常に巧い。外見的な特徴から内面まで細かく描いていて、そのおかげで脇役にまで興味を持って、その人が別の物語でも描かれていると思わず読んでしまう。そういう魅力がありますね。参考文献も少ないはずなのに想像力を駆使してここまで補い、かつ面白い物語を描けるのはすごい。


 それで、今回の「奇貨居くべし」の主役は秦の始皇帝・政の父親とも言われる呂不韋です。彼が賈人(賈人が店を構えて商売する人、商人が各地を回って品物を売る人だそうです)の家に生まれ、思想家や人格者に出会うことで自分を磨いていき、賈人から秦の宰相にまでのぼりつめて行く話で、いつもどおり病み付きになりました。この中にも他の本で知ってる人が多数出てきて、もう完璧に術中にはまりましたね(笑)。ホントいい仕事してますよ!


奇貨居くべし 春風篇奇貨居くべし 火雲篇奇貨居くべし 黄河篇奇貨居くべし 飛翔篇奇貨居くべし 天命篇


 あと、Wikipediaがすごい。このデータベースはかなりのレベルだね。だけど斉の頃公のページはどう考えても晏子を参考にしてるように思えるんだけど、どうでしょう。
Wikipedia「頃公」について
 宮城谷氏の作品について解説がありました。
コチラ
 宮城谷昌光氏と歌手の吉川晃司氏が対談したそうです。非常に興味深いです。
南方郵便機さん。